ネトル(セイヨウイラクサ)は観賞用にも利用される植物で、古代ギリシャの時代から利尿剤や下剤として使用されており、経口摂取によって抗炎症作用を持つことが示されています。現時点でのエビデンスでは変形関節症、前立腺肥大、花粉症などへの効果が示唆されています。また、テストステロンレベルを改善すると宣伝されることがありますが、このような効果はないようです。

概要

ネトル(セイヨウイラクサ)はきれいな花を咲かせるため観賞用にも栽培されていますが、根や茎、葉が薬用に使用される植物です。ネトルの葉の利用は長い歴史があり、古代ギリシャ時代から主に利尿薬や下剤として使用されてきました。ネトルは様々な用途に使用されていますが、その多くでは十分な科学的なエビデンスはありません。

現時点ではネトルの服用や患部に塗布することで変形性関節症の症状を改善する効果が示されていることに加えて、良性前立腺肥大症[BPH]による排尿問題(夜間排尿、頻尿、排尿痛、排尿障害、膀胱過敏)の改善、花粉症の症状の軽減に対する効果が示唆されています。

また、テストステロンレベルを改善すると宣伝される場合が見られますが、現時点で得られている科学的なエビデンスではテストステロンに有意な影響は与えないようです。

ネトルの根が、関節症、利尿薬、収斂薬としても使用され、茎や葉などの地上部が、尿路感染症(UTI)、尿道炎、腎結石(腎石症)、アレルギー、花粉症、変形性関節症に使用される傾向があります。
一部の人は、傷の治療、子宮の出血、鼻血、腸の出血、内出血、貧血、循環不良、脾臓肥大、糖尿病などの内分泌障害、胃酸、下痢赤痢、喘息、肺鬱血、発疹・湿疹、癌、老化の予防、強壮作用の目的で茎や葉を使用しています。また、筋肉痛、頭皮の油、脱毛(脱毛症)の治療のために皮膚に適用する例も見られます。また、ネトルの葉を野菜として食べる場合もありますし、エキスをヘアケアやスキンケアの製品の成分として使用される例も見られます。これらの目的でのネトルの使用に対する科学的な裏付けは現時点では十分ではありません。

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ネトルはセイヨウイラクサ(stinging nettle:Uritica dioica)ですが、同じく英名にネトルを含むオドリコソウ[野芝麻](white dead nettle: Lamium album)とは異なりますので注意が必要です。

 

適応・効果

適応情報

有効性の信頼度(中)

  • 変形性関節症: ネトルを経口服用したり、皮膚に塗布すると、変形性関節症の人の痛みを軽減できるというエビデンスがあります。 研究によれば、ネトルを使用すると、鎮痛薬の必要性を低下させられることが示されています。痛み

エビデンス不足

  • 花粉症: 初期の研究によると、ネトルを花粉症の初期症状に使用すると症状の改善に役立つことが示唆されています。
  • 前立腺肥大症(BPH):  BPHの症状の改善のために単独または他の成分と一緒にネトルを服用した場合の効果については相反するエビデンスがあります。初期のエビデンスによれば、360mgのネトルを6〜24ヶ月間服用すると、BPHに関連する尿路症状が改善されることが示唆されています。多くの研究がネトルとノコギリヤシの両方を含む製品で効果を検証しています。ある製品は、特定のネトルエキス(WS 1031)120 mgとノコギリヤシの抽出物(WS 1473)160 mgを含有しており、24〜48週間、1日2回服用することでBPHの男性の尿路症状を有意に改善するようです。この組み合わせは、BPHの症状を緩和する処方薬フィナステリドに匹敵し、フィナステリドよりも良好に許容されることが示唆されています。しかし、ネトル、ノコギリヤシ、またはその組み合わせでこのような効果が現れるのかは不明です。他方で、ネトルの根の抽出物80mg、ノコギリヤシ油抽出物106mg、カボチャ種子油抽出物160mg、レモンバイオフラボノイド抽出物33mg、ビタミンA 190IU(100% β-カロテン)を1日3回、6ヶ月間服用してもBPHの症状を有意に改善しないという研究結果もあります。
  • 出血:  いくつかの初期の研究では、アルピニア、甘草、タイム、ネトル、ブドウワインを含む特定の製品を皮膚に塗布すると、手術での出血が減少することが示唆されています。 他の初期の研究でも、同じ製品が歯科手術後の出血を減少させることを示唆しています。
  • 糖尿(糖尿病):  初期の研究では、ネトルを8週間服用しても、糖尿病患者の血糖のコントロールには影響を与えないことが示唆されています。
  •  歯肉炎(歯垢):  初期の研究では、ネトル、ジュニパー、ヤロウを3ヶ月間1日2回使用しても、歯肉炎の人の歯垢や出血を減らせないことが示唆されています。出血
  • 体液貯留:
  • 貧血:
  • 血行不良(冷え症):
  • 下痢症: 下痢
  • 喘息: 喘息
  • :
  • 創傷: 創傷治癒

 

効果まとめ

効果まとめ表

効果まとめ表は動物や試験管内の実験ではなく、経口服用による人体での反応を科学的に研究したデータを基にどのような効果がどの程度あるのかをまとめたものです。

レベル 研究の質と量

?

信頼性の高い研究データの量. 信頼性の高いデータが多ければ多いほど研究結果の信頼性が高くなります.

二重盲検臨床試験が繰り返し行われ確実性の高い研究が実施されています。
2つ以上のプラセボ効果を排除した二重盲検試験を含む複数の研究が実施されています。
二重盲検試験が1件または複数コホート試験が実施されています。
上記に満たない研究内容または観察研究のみが報告されています。
研究の質と量

?

信頼性の高い研究データの量. 信頼性の高いデータが多ければ多いほど研究結果の信頼性が高くなります.

研究対象 効果の大きさ

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それぞれの研究対象に対する効果の方向性と大きさ. 対象項目を増加させるもの、低下させるもの、作用しないものを示しています.

研究の整合性

?

科学的な研究でも常に結果が一致するとは限りません. この評価が高いほど対象項目に関する科学的な研究結果が一致しており、整合性が取れています.

摘要
変形性関節症の症状 中程度 高い 4件の研究結果を見る
ネトルの服用または患部への塗布が変形性関節炎の症状を減少させ、鎮痛薬の必要量を低下させられるようです。
アレルギー 小さい 研究結果を見る
経口摂取によってアレルギーの症状の軽度の減少が見られました。
抗酸化酵素プロファイル 小さい 研究結果を見る
グルタチオンペルオキシダーゼの軽度の増加が見られました。
C-反応性タンパク質 小さい 研究結果を見る
C反応性タンパク質濃度の軽度の低下が見られました。
炎症 小さい 非常に高い 2件の研究結果を見る
LPS刺激性の前炎症性サイトカイン放出を減少させ、抗炎症作用を持つようですが、効力はそれほど顕著ではありません。
鼻詰まり 小さい 研究結果を見る
ネトルの補給で鼻づまりの軽度の減少が見られました。
良性前立腺肥大症の症状 小さい 研究結果を見る
良性前立腺肥大症患者の尿量の増加が見られました。
インスリン感受性 研究結果を見る
ネトルの補給によるインスリン感受性への有意な影響は見られませんでした。
脂質過酸化 研究結果を見る
脂質過酸化に対する有意な影響は見られませんでした。
前立腺肥大 研究結果を見る
症状を軽減しても前立腺肥大に有意な影響は見られませんでした。
TNF-アルファ 研究結果を見る
循環TNF-αに対する有意な影響は見られませんでした。
テストステロン 研究結果を見る
テストステロンレベルに有意な影響は見られませんでした。
重量 研究結果を見る
ネトルの服用による体重への有意な影響は見られませんでした。

 

副作用

副作用と安全性

ネトルの2年以内の適量の経口摂取や肌への塗布は安全とされています。 しかし、経口摂取した場合、胃のむかつきや発汗、肌へ塗布すると皮膚の炎症を起こす可能性がありますので注意が必要です。

注意と警告

妊娠と授乳: ネトルの妊娠中の服用は安全でない可能性があります。子宮収縮を刺激し、流産を引き起こす可能性があります。授乳中の場合の安全性についても不明のため、服用を避けることをおすすめ致します。

糖尿病: ネトルの根が血糖値を下げる可能性があるというエビデンスがいくつかあります。 糖尿病治療を受けている人の血糖が低下する可能性がありますので、注意が必要です。

低血圧: ネトルの服用は血圧を下げる可能性があります。 血圧が低い場合は、服用し始める前に医師に相談することをおすすめ致します。

腎臓の問題: ネトルは排尿量を増加させる可能性があります。腎臓の問題を抱えている場合は、服用し始める前に医師に相談することをおすすめ致します。

注意事項

相互作用

中程度の相互作用

下記の組み合わせに注意してください。

  • リチウム:ネトルは利尿薬のような作用を持ちます。ネトルの服用で体内のリチウムが過剰になり、深刻な副作用を引き起こす可能性があります。 リチウムを服用している場合は、医療提供者に相談してください。
  • 糖尿病薬:ネトルは血糖を下げる可能性があります。 糖尿病薬と一緒にネトルを服用すると、血糖値が低くなりすぎる可能性があるため注意が必要です。糖尿病薬には、グリメピリド、グリブリド、インスリン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、クロルプロパミド、グリピジド、トルブタミドなどが含まれます。
  • 降圧剤(高血圧薬):ネトルは血圧を下げる可能性があるため注意が必要です。 高血圧治療薬の中には、カプトプリル、エナラプリル、ロサルタン、バルサルタン、ジルチアゼム、アムロジピン、ヒドロクロロチアジド、フロセミドなどが含まれます。
  • 鎮静剤(CNS抑制剤):ネトルは眠気を引き起こす可能性があります。 鎮静薬の効果が増強される可能性があります。 鎮静剤には、クロナゼパム、ロラゼパム、フェノバルビタール、ゾルピデムなどがあります。
  • ワルファリン:ネトルは、多量のビタミンKを含んでいます。ビタミンKは血液凝固に使用されますが、血液凝固を遅らせる ワルファリンの有効性を低下させる可能性があります。 医師に相談してワルファリンの用量を変更する必要があるかもしれません。

その他の名称

  • イラクサ、セイヨウイラクサ、ウルティカ・ディオイカ(Radic Urticae)、コモン・ネトル、グレーター・ネトルテル、オルティカ、ツクニーダ

混同しやすいもの

  • オドリコソウ[野芝麻](white dead nettle、Lamium album)

注意点

  • 多くの研究において複数の薬草が使用されており、これらの効果がネトル単体で起こるかについては分かっていません。
  • ネトルの外用塗布も関節炎に効果があるようです。

服用方法

推奨用量、有効量、その他の詳細

1日3回120mg(合計360mg)のネトルの服用は良性前立腺肥大症に対する効果が示唆されています。アレルギーや花粉症に対しては、凍結乾燥されたネトルの葉を1日2回300mgずつ服用しています。変形性関節炎の外用塗布にはネトルを13.33%含有するクリームを患部に塗布しています。

 

科学的根拠・参考文献