炭酸水素ナトリウム(ベーキングパウダー、重曹)は、人体が酸性になることに対する緩衝剤として機能する化合物で、運動選手の身体的能力を向上させることが示されています。それ以外にも胃酸を緩和したり、アシドーシスを防いだりすることによる健康上の利点を持つ可能性がありますが、使用方法によっては胃腸における副作用を持つ可能性があります。
コンテンツ
概要
重要な効果・情報
炭酸水素ナトリウム(ベーキングパウダー)は、胃酸を減らし、胸焼け、消化不良、胃のむかつきを治療するための制酸剤として使用されています。重炭酸ナトリウムは非常に即効性の制酸剤ですが、長期にわたる胃酸の問題(消化性潰瘍など)を治療する場合や効果が感じられない場合は医師に相談してください。また、炭酸水素ナトリウムは通常腎臓で産生される重炭酸塩の血清レベルを上昇させ、胃だけでなく体内の酸生成を抑制することもできます。炭酸水素ナトリウムの作用の主なメカニズムは、アシドーシスの作用を緩和することで起こります。一般に代謝疾患や老化によるゆるやかな腎機能低下に見られる慢性的で軽度のアシドーシスや、運動誘発性のアシドーシスの両方において利益をもたらします。
アスリートにおいては、標準的な重炭酸ナトリウムの補給(200-300 mg/kg)は、運動障害が代謝性アシドーシスに関連している場合、パフォーマンスの改善に高確率で効果をもたらすことが示されています。心臓保護システムや中枢神経系による筋力(例えば、スプリントやボートこぎ)に対しては、炭酸水素ナトリウムの補給が確実に効果をもたらすわけではないようです。炭酸水素ナトリウムを運動の60~90分前に服用することで効果がみられますが、過剰摂取は胃腸の副作用を起こす可能性があります。
さらに、1日に5gの重炭酸ナトリウムを摂取すると、食事療法や加齢によって引き起こされるアシドーシスを減らすのにある程度効果があり加齢による骨の衰えを低下させる可能性がありますが、炭酸水素カリウムを使う方が効果が高いようです。
重炭酸ナトリウムがケトンの生産と脂肪分解を増加させ、代謝率をわずかに増加させることが示されており、脂肪を燃焼させるメカニズムを示していますが、現時点での研究では実際の体重減少にはつながっていません。
適応・効果
適応情報
効果まとめ
効果まとめ表
効果まとめ表は動物や試験管内の実験ではなく、経口服用による人体での反応を科学的に研究したデータを基にどのような効果がどの程度あるのかをまとめたものです。
レベル | 研究の質と量 ? 信頼性の高い研究データの量. 信頼性の高いデータが多ければ多いほど研究結果の信頼性が高くなります. |
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二重盲検臨床試験が繰り返し行われ確実性の高い研究が実施されています。 | |
2つ以上のプラセボ効果を排除した二重盲検試験を含む複数の研究が実施されています。 | |
二重盲検試験が1件または複数コホート試験が実施されています。 | |
上記に満たない研究内容または観察研究のみが報告されています。 |
研究の質と量 ? 信頼性の高い研究データの量. 信頼性の高いデータが多ければ多いほど研究結果の信頼性が高くなります. | 研究対象 | 効果の大きさ ? それぞれの研究対象に対する効果の方向性と大きさ. 対象項目を増加させるもの、低下させるもの、作用しないものを示しています. | 研究の整合性 ? 科学的な研究でも常に結果が一致するとは限りません. この評価が高いほど対象項目に関する科学的な研究結果が一致しており、整合性が取れています. | 摘要 |
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重炭酸塩 | 非常に高い 47件の研究結果を見る | 血清中の重炭酸塩の濃度を高める目的では、重炭酸塩の経口摂取は基準物質となっています。ベースラインから30%程度増加する可能性があります。 | ||
血液の酸性度 | 非常に高い 46件の研究結果を見る | 減少の大きさはやや小さいですが、体内でpHが調節されるためです。酸性度は300mg/kgの重炭酸ナトリウムの補給後に確実に減少するようです。 | ||
乳酸生産 | – 37件の研究結果を見る | 長時間の運動の場合、乳酸濃度の低下が見られますが、短時間の激しい運動では乳酸塩生成の増加が見られます。 | ||
短距離走能力 | 中程度 34件の研究結果を見る | 代謝性アシドーシスに関連する問題のある心血管系の運動は、重炭酸塩の補給で軽度ながら信頼性のある効果が見られるようです。そうでない他の運動(ボート、スプリント、水泳)では、効果の信頼性が大きく低下しています。 | ||
筋力 | – | 中程度 28件の研究結果を見る | 理論的には、代謝性アシドーシスに関連する運動中の平均的な筋力の1〜2%程度の増加が起こる可能性がありますが、これが信頼できる出力の増加をもたらすとは言えません。代謝性アシドーシスが誘発することができるのは、筋力の低下を緩和することです。 | |
歯のホワイトニング | 非常に高い 3件の研究結果を見る | 重炭酸ナトリウムを含むガムを使用した場合、しみの減少が時間依存的に見られ、4週間で約30〜50%のしみの減少が見られ、12週間で約70%の減少が見られました。 | ||
エアロビック | 高い 3件の研究結果を見る | 自然に延長され(45m以上)、乳酸閾値を超えない心血管運動については、疲労するまでの時間やエクササイズを完了するまでの時間がわずかに改善するようです。 | ||
神経筋機能 | 非常に高い 3件の研究結果を見る | 手と目の協調を必要とするスポーツ(ボクシングとテニス)は、重炭酸ナトリウムの補給により、パンチやテニススイングの精度が向上するようです。 | ||
トレーニング量 | 中程度 10件の研究結果を見る | 代謝性アシドーシスに関連する無酸素運動(高強度)でテストを行うとトレーニング量が増加する可能性がありますが、それ以外の場合には同様の効果は無い可能性があります。 | ||
心拍数 | – | 非常に高い 5件の研究結果を見る | 休息時や運動中の心拍数に重炭酸ナトリウムの有意な効果はありません。 | |
自覚的運動強度 | – | 非常に高い 10件の研究結果を見る | 炭酸水素ナトリウムが疲労で見られるような神経筋の衰退を緩和するという十分なエビデンスがありますが、自覚的運動強度にはまったく影響を与えないようです。 | |
VO2 Max | – | 高い 7件の研究結果を見る | 大部分の場合、VO2のピーク消費量は、炭酸水素ナトリウムの影響をあまり受けません。(ただし、VO2の最大値を参照していないVO2動態には多少の影響がみられました) | |
血漿エンドルフィン | – 研究結果を見る | 運動誘発性のエンドルフィンの急上昇(スパイク)は酸性度のスパイクに関連しているようで、重炭酸塩の補給により、スパイクを強力に抑制することができるようです。(ただし、スパイクをなくすことはできないようです) | ||
脂肪酸化 | – 2件の研究結果を見る | より信頼性の高い研究では脂質酸化の低下が見られますが、増加を示す研究もあり、結果が相反しています。 | ||
インスリン感受性 | 中程度 2件の研究結果を見る | 代謝性アシドーシスを患う人のインスリン感受性に与える影響は感受性を増加させるものもあれば、低下させるものもあります。 | ||
柔道のパフォーマンス | – 研究結果を見る | 柔道の練習における研究で、炭酸水素ナトリウムの摂取が、制限時間内に投げる回数を改善することが示唆されています。 | ||
脂質吸収 | – 研究結果を見る | 適量の炭酸水素ナトリウム(100mg未満)を補給した更年期女性を対象にした研究では、食事からの脂質吸収の減少を示しています。 | ||
筋肉酸素化 | – 研究結果を見る | 筋肉脱酸素化の速度の相対的増加が見られました。 | ||
ノルアドレナリン | – 研究結果を見る | 運動誘発性のノルアドレナリンの減少が報告されていますが、これが正しい情報であるかどうかは不明です。 | ||
アドレナリン | – | 中程度 2件の研究結果を見る | 結果が相反していますが、運動中のカテコールアミンの増加は酸性度と関連しておらず、炭酸水素ナトリウムによって抑制されないことを示唆しています。 | |
アンモニア | – | 非常に高い 2件の研究結果を見る | 血漿アンモニアに有意な影響は見られませんでした。 | |
血糖値 | – | 非常に高い 2件の研究結果を見る | 安静時または運動中の血中グルコース濃度に有意な影響は見られませんでした。 | |
血圧 | – | – 研究結果を見る | 血圧に有意な影響は見られませんでした。 | |
ハイドレーション | – | – 研究結果を見る | ハイドレーションにに有意な影響は見られませんでした。 | |
インスリン | – | – 研究結果を見る | 空腹時のインスリン濃度に有意な影響は見られませんでした。 | |
酸素摂取 | – | – 研究結果を見る | 酸素摂取量に有意な影響は見られませんでした。 | |
ケトン体 | 非常に高い 2件の研究結果を見る | 絶食またはケトゲン食中に、炭酸水素ナトリウムを補給するとケトン体の生成を増加させることが示唆されています。効力は小さいようで、脂肪がさらに減るわけではないようです。 | ||
代謝率 | – 研究結果を見る | 低用量の炭酸水素ナトリウム(17mg/kg)の補給が代謝率の上昇に関連する可能性が示唆されています。 | ||
インスリン分泌 | – | – 研究結果を見る | インスリン分泌に有意な影響は見られませんでした。 | |
重量 | – | – 研究結果を見る | 代謝速度の潜在的な増加とケトン体生成の増加が見られましたが、現時点では、炭酸水素ナトリウムを補給による脂肪の減少を裏付けるエビデンスはありません。 |
副作用
注意事項
相互作用
薬物の相互作用は薬の効果を変えたり、副作用のリスクを高める可能性があります。以下の相互作用はすべての起こりうる薬物相互作用を網羅しているわけではありません。不明の場合には、医師や薬剤師に使用している医薬品やサプリメントなどの情報を共有してください。
相互作用する可能性のある医薬品には、アセタゾラミド、アスピリン、サリチル酸塩(サルサレートなど)、コルチコステロイド(プレドニゾンなど)、メマンチン、胃を保護するための特別なコーティングを施した薬(腸溶コーティング)などです。
また、アンピシリン、アタザナビル、特定のアゾール系抗真菌薬(ケトコナゾール、イトラコナゾールなど)、鉄サプリメント、パゾパニブ、スクラルファートなど、胃酸に関連する薬の効果を低下させる可能性があります。
心臓発作や脳卒中予防のために低用量のアスピリンを服用するように医師から指示されている場合(通常1日に81〜325ミリグラム)、医師の指示がない限り、服用を続ける必要があります。不明な点については医師または薬剤師にお尋ねください。
その他の名称
- ベーキングパウダー、重炭酸塩、重曹
注意点
- 炭酸水素ナトリウムの静脈注射は、パニック障害を持つ患者の発作を誘発する可能性が指摘されています。経口補給では指摘されていませんが、パニック障害を持つ方は注意が必要です。
- 高用量の炭酸水素ナトリウムの補給は胃や腸の不調を引き起こす可能性があるため、開始時の用量は耐性を確認するため、半量で始めることをお勧め致します。
- 炭酸水素ナトリウムは中程度から低量の水で安静時にゆっくりと飲んでください。高濃度の炭酸水素ナトリウムを急速に飲むと胃酸と反応する可能性があります。
分類カテゴリー
確認事項
- 現在のところ確認はされていませんが、高用量の炭酸水素ナトリウムがパニック障害を持つ人のパニック発作を誘発する可能性があります。
- 理論的には炭酸水素ナトリウムは代謝性アルカローシス(急性アシドーシスと同様に危険な症状)を誘発する可能性があるため、推奨用量以上の摂取は控えましょう。
- 300mg/kgの炭酸水素ナトリウムは82mg/kgの高用量のナトリウムに相当しますが、約4分の1は急速に排泄されますが、塩分摂取を控えている方にとってはそれでも過剰となる可能性があります。
- 炭酸水素ナトリウムの過度の摂取は、カリウム排泄を増加させ、カリウム欠乏を誘発する可能性があります。慢性的な炭酸水素ナトリウムの補給には、カリウムが豊富な食事を取ることが推奨されています。
- 腎機能障害を持つ人は、医師の指示なしに炭酸水素ナトリウムを使用するべきではありません。
- 効果副作用.com 免責事項
服用方法
推奨用量、有効量、その他の詳細
ベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウムのことですので、炭酸水素ナトリウムの補給のためにベーキングパウダーを利用する場合も同様の効果があります。
運動前に使用する場合、炭酸水素ナトリウムの補給用量は200~300mg/kgの範囲が一般的です。 500mg/kgでも有効ですが、一度に摂取すると、腸の副作用が出やすくなる傾向があります。激しい運動のために、炭酸水素ナトリウムを服用する場合は、代謝性アシドーシスに関連する無酸素運動を行う60~90分前に摂取する必要があります。長時間の運動については45~60分前に摂取するべきです。
炭酸水素ナトリウムは、運動前の急性補給でなく、食事と一緒に摂取しても、同様の効果があるとされています。この場合、1日3回(1回150mg/kg)に分けて摂取して、合計500mg/kgは十分に許容され、運動をする日に追加で炭酸水素ナトリウムを摂取する必要もなくなります。
投与量は体重を基準にしているため、肥満の場合は誤って高い用量を摂取してしまう可能性があります。正常範囲の体重を超過している場合は、標準体重を基準にして推定することが必要な場合があります。高用量や急性の摂取で胃酸と反応して胃の不調を起こす可能性があるため、重炭酸塩を消費する手段は重要です。適度な量の水(500 mL)と一緒に数分かけてゆっくりと摂取し、用量も半量から初めて様子を見ながら調整していくべきです。200mg/kg以内という用量を守れば、副作用のリスクを軽減することができるようです。